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“Day by day, in every way, I’m getting better and better.” 「日々に、あらゆる面で、 私は益々よくなってゆく」 クーエの有名な暗示文です。
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今のところ直す方法が無いらしい。
自己免疫が自分自身を敵だとみなし、攻撃する病気だそうだ。
関節は炎症を起こし、熱く腫れ上がり、痛みを伴い、次第に痛みに耐えかね、ぐったりとベットに横になる。
自身の自己免疫が関節と関節の間の液体を燃やし尽くしたら、関節の変形が始まり、
徐々に動かなくなっていき、寝たきりになる。といわれた。

あたしにはすでにほとんど握力がなくて、ペットボトルのふたすら開けられない。

ただ、あたしの場合ごく初期なので、関節の変形は始まっていない。
消炎さえきちんとできれば、家の中での日常生活に、多少の助けは要るけれど、さほど問題は無い。
あたしは鎮痛消炎剤をかかせないけれど、それで生きていける。
これはとても、とても幸せなことだ。

整形外科医は精密検査と本格的な治療を薦めたけれど、
あたしは治る見込みのない確立されていない治療に苦痛を強いられる位ならば、
消炎剤を飲み続けていてそれで動けるのだから、それでもういいと言った。
良い顔はされなかったけれど、あたしの決定が全てだ。

あたしはそれで納得したつもりだったけれど、気づいたらレキソタンを大量服薬していた。
それからの三日間全く記憶が無い。
なぜ飲んだのか、何故二度とやらないと誓った服薬をしたのか、
その理由が本当に、全くわからず、それがとても怖かった。
何よりその記憶の無い三日間、誰にも危害を加えることが無かった事に、心底安心した。

後日精神科医に薬をもらいに言った時に全てを告げた。
精神科医は
「きっとつらかったでしょう」と感情を交えず言った。
そして大量服薬をした記憶が無い事を、妄想がひどくなっている事を伝えると、
「どろどろしたものが見えているのでしょうね」とだけ言ったけれど、
あたしはとてもどきりとした。
あの人にはあたしと同じものが見えているのだろうか、
この白い人はあたしと同じなのだろうかと少しすがりそうになったのだけれど、
あたしの彼は、「おそらく見えていないのだろう、推測だろう」と言ったので、
あたしはひどく失望した。
現実的に考えればそうだ。でもあたしはすがってしまった。
もしかあたしは孤独なのだろうか。最近それすらわからない。

事実あたしは空間が歪んで見えたり人の顔が般若に見えたりするのだけれど、
それよりも言った覚えの無い言葉や行為の方が空恐ろしくて、
自分がどんどんわからなくなっていく。

そしてまた今回、不本意にも薬の大量服用をやらかしてしまった。
あたしがあたしじゃなくなっていく。

とても、怖い。
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白い人曰、

あたしはどうも、強迫性障害でもあるらしい。

鍵をかけたかどうだか心配になって、

引きこもりの癖に何度も何度も確認してしまう。

『誰か入って来るんじゃないか』と
『そして刺されるんではないか』と考えて

怖くて怖くて仕方が無いのだ。

あたしがまだ小さい頃、一番上の兄がよく荒れていた。

彼も統合失調症で、郵便屋を刺客だ、監視にきていると言ったり、
夜中に大騒ぎしてこうもりが入ってきたと言ったり、
奇異な言動は多岐多様に渡るけれど、
車の鍵をなくしたと言って、
つるはしで車の方の鍵を壊してきた時には驚いた。
もちろんエンジンキーも無残に破壊されていた。
当たり前だけれど、あれではもう乗れない。
しかも、
どうして自分のスープラが動かなくなったのかわからないそうだ。

怖くて、変な人。

ある日までは、それがあたしの、兄への評価だった。



ある晴れた昼下がり、

敷地内に立てられたうちの工場の二階で、

仕事をしている母と一緒に居た。

何のきっかけがあったのかは知らないが、

いつもの様に、兄は狂っていた。

仕事をしていた母は、

いつもの様に、罵られ殴られ、蹴られていた。

母と一緒に居たあたしは

いつもの様に、声も出せず泣きながら震えていた。

いつもの様に、それは父が居ない時で、

いつもの様に、あたし達無力な女は泣いて逃げ惑うだけだった。

だがその日は少し違った。

母は、耐えられないと思ったのか、

父を呼びに一階へと続く階段へと一人で走っていってしまった。

後を追う兄が唯一の逃げ道を防ぐ事となり、

あたしはこの狂気を抱いた兄弟と、

陸地の孤島と化した二階に閉じ込められる形となった。



あたしは見捨てられた、一人だけ逃げたと強烈に感じ、

ただ呆然と、唯一の逃げ道を見ていた。



怖くて怖くて、本当に怖くて、声も出なかった。

だけれどやり場をなくした兄が、

叫びながら床の箱を力いっぱい蹴り飛ばす物音で、

糸が切れた様に声を上げて泣き出してしまった。

あたしは本能的にわかっていたから声を出さなかったのだ。

声を出せば、どうなるのか。


展開は、恐れていたとおりだった。

「うぉおおおお!!!泣くなぁああ!!うるすぁあああいぁ!!」と、

怒りのやり場を見つけた兄は、

奇声を発しながら私に向かって歩いてきた。

そしてあたしの、8歳のあたしの髪を掴み、

あたり中引きずり回した。

箱やら机やらにぶつけられて全身痛くて、

頭蓋骨から頭皮がはがれるんじゃないかと思う程

頭も痛かったけれど、どこか冷静なあたしも居て、

ただただ、とてもとても怖かった。

だが、どうもそれでは気がすまなかったのか、

兄は私の髪を掴んだまま一階へと続く急な階段へと引きずった。

逃げられる、と一瞬だけ思った。

それは間違いだと、すぐに気づくのだけれど。

あたしはそこで、髪を掴んだまま持ち上げられ、

足が床から離れたところで、急に髪は自由になった。

途端重力によって階段にしたたかに全身ぶつかり、転がる。

死ぬ、と思った。

瞬間、体が浮く。兄があたしを捕まえた。

助かった。と思った。

が、それは兄の吐き気のする程嫌悪感を抱く、

『思いつき』の始まりに過ぎなかった。


あたしは髪を掴まれ、引きずりあげられ、

また、あたしの髪は自由になった。

そうやって何度も何度も、あたしは階段から

落ちる、怖い、死ぬ、痛い、助かった、痛い、落ちるを繰り返された。

三段落ちては二段引きずり上げられる。

そしてまたあたしの足は床を離れ、髪は自由を得る。

瞬時に体全身に鋭い痛みと鈍い音が響く。

かと思えばまた頭に差し込むような痛みが走り、体が浮く。

そしてまた重力のまま落下する。

何度繰り返されたのか覚えていない。

これなら一思いに落としてくれたほうが

幾分かマシだと思ったのは覚えているけれど。

気が付いたらもう声も出ていなかったし、

父が憤怒の声を上げながら助けに入ってきたのを、

落ちながらうっすらと見た。

兄は父の勢いに負けたのか、

その瞬間あたしを投げ出し、逃げ出した。

あたしは父が兄を張り倒すのを見て目が覚めた様に泣き始め、

体中痛むのを忘れ家から飛び出した。

いつもの様に母に頼らず、家そのものから逃げ出し、

当時仲の良かった子の家に逃げ込んだのは、

きっと母すら信用なら無いと本気で思ったからだろう。

そこからあたしは兄を兄と思った事もないし、

兄に笑いかけた事も、つい先日まで話すらしていなかった。

その一件からあたしは、兄が狂うとただ泣くだけではなくなっていた。


ある日の夜、いつもの様に。

狂った兄は私達を探していた。

いつもの様に、父は不在で、

いつもの様に、母とあたしは逃げ惑っていて、

その日に限って、工場へと逃げ込んでしまった。

二階へとあがったけれど、袋のねずみだ。

兄がもし気づいてあがってきてしまったら、

今度こそ殺されるかもしれない。

二階から飛び降りて大丈夫かな、暗闇でそんな話を母とした。

あたしはまだしも母は助からないだろうなと思った。

あたしは静かに、

刃渡り30cmはある特別大きな裁断ハサミを持ち出し、

懐に忍ばせ、暗闇の中、母に言った。

「もしお兄ちゃんが上がってきたら、あたしが殺す」

あたしはその日から、兄が狂うと刃物を持ち出すようになった。

母はそんなあたしを咎めたけれど、

母だってあたしを見捨てたじゃないかと内心思っていた。

8歳の子が刃物を持って殺すなんて決意を抱く家で育ったあたしは、

きっとあの時から怖くて仕方ないのだ。

誰かがやってきて、あたしを殺すんじゃないかと。

一思いにはやらず、何度も苦しめるんじゃないかと。


そうして今日も、あたしは何度も何度も、鍵を確かめている。


今日また、あの人からメールがきました。

彼女はとても優しい人なのでしょう、

そしてとても淋しい人なのでしょう。

あたしを見捨てない数少ない一人です。


彼女の周りに人はたくさんいるのだけれど、

あたしを見捨てず、

返事を期待しないメールを未だによこすのは

彼女自身が人に救われているからなのでしょう。

人が人を救うと知っているからなのでしょう。

そしてとても、寂しい人なのでしょう。


あたしはそんな彼女を垣間見る度、

とても悲しく、申し訳なく思うのです。


あたしはいい機会だと思っていますし、

連絡を取る事は今後無いのですから、

アドレスでも変えればいいのでしょうけれど

それをやらないのは

あたしが、とても寂しい人だからなのでしょうね。

潔癖症になりました。


トイレの後はシャワーを浴びなければ気がすみません。

毎日毎日掃除をし続けています。

あれだけ荒れていた家が今度は塵ひとつなくなりました。

塵がなくなるとひとかけらの埃も許せなくなりました。

埃もなくなると、今度は目に見えないばい菌が許せなくなりました。

アルコールスプレーがすごい勢いで消費されていきます。

そうやってアルコール消毒をして回った後

今度は自分が汚れているような気がして自分自身を許せなくなりました。

一日に何度もシャワーを浴び、赤くなるまで体をこすりますが気持ちが悪くて仕方ありません。

こうなればもうアルコール消毒しかありません

赤く腫れた皮膚には非常に痛みましたが

私は私自身の全身をアルコール消毒していました。

こすり過ぎて赤く腫れた皮膚にアルコールを拭きかけ

その焼けるような痛みに満足していました。


良いことだと思っていた以上の事を、白い人から「いけない事だ」と言われた今のあたしは

シャワーを我慢し、掃除を我慢しています。

気になって気になって

一時は気が変になりそうになりましたが

(というのも非常に妙な話ですけれど)

徐々に落ち着いてきました。

程よく散らかった部屋に居座るあたしは

以前と変わりなく見えるのでしょうけれど

外に出ると、とても気持ちが悪くなるのです。

手すりや扉、触らなければいけない、

多数が触ったもの。

正直、皮膚がふれるだけでも我慢できないのに

それを握らなければいけないなんて。

密度の濃い二酸化炭素と水蒸気を含む、

他人の肺の中を何度も行き来したであろう空気を

何度も吸わなければいけないなんて。


未だに手すりは持てずにいますが、

おうちの中では、とても幸せです。

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