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“Day by day, in every way, I’m getting better and better.” 「日々に、あらゆる面で、 私は益々よくなってゆく」 クーエの有名な暗示文です。
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もう8年にもなるね。
お父さん。
あたしは16だったから、もう8年にもなるんだよ。

事故、大変だったよね。
お母さんは顔ガラスにぶつけて紫色に腫れるし、
あたしは首にギプスして。
でも、お父さん一番ぴんぴんしてたのに、
後からなんか服着られなくなっちゃうし、
ご飯だって左半分残すしさ。
精密検査で脳梗塞とか言われた時はびっくりしたよ。
左側が認知できないんだったよね。

あたし高校終わったらすぐ、馬鹿みたいに笑いながら、夜中までお父さんの横にべったりしてたよね。
服着せて、ご飯は残すから器くるってまわしてさ。
でも、電柱にひっかかって、動けなくなってるのを見た時は、
正直悲しくって、うまく笑えなかった。ごめんね。


お父さんリハビリがんばったよね。
毎日毎日がんばって、できる事も増えてった。

でも、お父さんがおしっこ漏らしたって聞いたときは、切なかった。
なんて話そうか、きっとプライドの高いお父さんの事だから、
きっと不機嫌なんだろうなとか、色々考えたのに、
お父さん、もう怒らなくなってたね。
何があっても、力なく笑うだけなんだもん、びっくりしたよ。

普通に歩いて、話もするのに、笑顔で立ったままおしっこ漏らしてて、
みんなそんな事目の前で起こってないみたいに振舞って、
あの時から、お父さんの事、「お父さん」って呼びづらくなってしまった。本当に、ごめんなさい。

しかも、今度は胃がんでしょ。
がんばって、手術したのに、今度は、転移でしょ。

お父さん、がん、治ったって嘘ついてごめんね。
みんなみんな、本当に、そうだといいなって思ってたんだよ。
ごめんね。

お父さんはもう、あたしの事だって間違うし、お母さんの事も誰だかわかんない時もあるよね。

顔に黄疸も出てるし、あばら骨や首の骨、透けて見えてるんじゃないかってぐらいボコボコで、痛々しくて、かわいそうで、辛い。

この前、会いに行ったでしょ。
面会謝絶って書いてた。ドラマみたいとか、そんな事考えてた。
「結婚するんだよ。式の日も決まったよ。幸せになる。」って言ったけど、
あれね、本当言うと、嘘なの。
結婚しようとは思ってるんだけど、まだ日なんてとても。
嘘ついてごめんなさい。
でもね、
「育ててくれて、ありがとう。お父さんの子供で、幸せでした」
って言ったのは、本当だよ。本当に、本当に、心から。


お父さんの、「せかいいちはやいタマゴ焼き」大好きだった。
お父さんが話してくれた、「ちへいせん と すいへいせん」の話も、
よく買ってくれた「ちっぷちょこ」も、「こぞうずし」も、
お父さんとした「きゃっちぼーる」も、大好きだった。

あたしは、きっといい娘じゃなかったと思う。
心配かけて、迷惑かけて、ごめんなさい。
孫、見せてあげられなくて、ごめんね。


もうすぐ逝くあなたに、お別れを言うつもりで、会いに行きました。
だから、いっぱい思い出話をしたし、
しながら泣いちゃったんだよ。
お父さん、変な顔して泣くあたし見てたね。
心配かけたかな。ごめん。

ちっちゃい頃、お父さんを驚かそうとして、
玄関でシーツかぶって、おばけだーーって飛び出したの覚えてる?

あたし、シーツのすそ自分で踏んで思いっきりこけて、頭打って寝込んだよね。

お父さん、うんうん言うあたしの頭冷やしてくれて、だいじょうぶか、だいじょうぶかって、顔くしゃくしゃにして謝ってたんだよ。
悪いのあたしなのにね、へんなの。

おなかすいたーってお父さんにおねだりして、お父さんはいつも、「せかいいちはやいたまごやき」とか言ってさ、
タマゴちりちりに炒っただけのやつ出すんだよね。
それがまたすっごい塩辛いのに、おいしくて、おいしくて、おいしくて。
お父さんは「せかいいちのりょうりにん」だっていうの、信じてた。


庭にハチが巣を作ったときも、あたしが見に行こう見に行こうってせがんで、お父さんが危ないって言うのにハチの巣つついちゃって、
あたし怖くてしゃがんだら、お父さんだけすっごい刺されたよね。
おとうさん顔ちょこちょこ腫れてたのに、一言も怒らなかった。
刺されてないか?って、それだけ聞いたら、笑ってた。



海岸沿いのあの道。毎日通ったあの道だよ。
沈む夕日見ながら、あれが「すいへいせん」だよって教えてくれた。
おっきくて、まるいねって言ったら、
世界には「ちへいせん」もあるんだよって。
見たい!って騒いだら、日本じゃあ難しいなぁって言われて、
いつか一緒に見に行こうねって、約束したね。

あたし、ぱぱと、けっこんする!って、よく困らせたね。
パパはママと結婚してるんだよ。お母さんはどうするの?って聞かれたから、ちょっと考えて、「ぱぱと、ままと、どっちともけっこんする!」って言ったの覚えてる?
あたし、それ言うとお父さんがすごく笑うの、知ってたんだよ。
お父さんに笑ってもらいたくて、いつもそれ言ってたんだ。


なんか、調子狂うよ。お父さん。
あたしはもう子供じゃないんだよ。
大人だから、しっかりしなきゃいけないし、
考えなきゃいけない事も、たくさんあるんだよ。

なのにお父さん、やせ細った手で、
あたしのことちっちゃい子みたいに、
頭なでるし、顔くしゃくしゃにして笑うしさ、
なんか、調子狂うよ。

なんでいなくなっちゃうの?
お母さん一人になっちゃうよ?
未練残るからとか、安心させてあげなきゃとか、そんなの関係ない!
なんでもいいから、文句でも、心配でもなんでもいいから、
いっぱいかけて、安心させないから、
ここに居てよ。

ずるいよ。

お父さんに文句も言ってないし、
約束守ってもらってないし、
釣りだって、連れてってもらってないし、
「ちっぷちょこ いちねんぶん」だって、まだもらってない!

もしこのまま死んだら、うそつきって、



やだよ、死んじゃうとか、やめてよ、やめてよ


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赤く、赤い、きらきら。

透ける、透けた、視えた。

お誕生日、おめでとう。
死ねばいいんだ。

全部全部、消えてしまえ。

頭の中の虫と一緒に、落ちる、落ちる。

土日をどう過ごしていいのかわからず、
闇雲に予定を入れなければ落ち着かなかったり、
逆に何もする気力が無い人たちが増えているそうだ。

ある人は休みの度に義務感で道の駅を巡りスタンプ集めをしているらしい。

両者に共通しているのは休日を満喫できないという事。

システマティックな平日から突然開放されても、
自分を解放できないと言う事らしい。

これに限らないのだけれど、大きな流れに適応できないといった類の話を聞くと、
「シャープな人たちだ」と感じる。
良いとか悪いとかではなくて、ただシャープだと感じる。

TVではただ年を重ねただけに見えるコメンテーターが
そんなやつらは感動しないロボット人間だとかなんとか全否定をしてしたり顔をしていた。


人はみんな一枚のリトマス紙だ。
現実のリトマス紙と異なるのはそれぞれの個性。
完璧な工場で安定した品質の、全く同じリトマス紙が大量に生産されたのではなく、様々な環境で作られ、微妙な配分のズレを生じたアナログなリトマス紙達だ。

だからもちろん、同じ液体を吹きかけられたって、成分の比率によって色は変わったり変わらなかったりする。

だからといって、色が変わらなかったリトマス紙達が、色を易々と変えたリトマス紙を異常だとか間違えてるだとか言うのは間違いだ。

色が変わったもの、変わらなかったもの、その中間に位置するもの、
色によって並び替え、ひとつにまとめれば、大きなリトマス紙になる。

大枠では個々の色の違いなんて小さな問題であって、問題は全体、少なくとも人々という大きなリトマス紙で見た場合、端っこは色づいたという事実だ。

「液体はリトマス紙を染める可能性のある液体だった」というだけだ。

私達はそんな液体の中に身を置いている。

誰の色が突然変わったって、それは責めるべきではないし、

「反応」として正しい。

彼らはただシャープであっただけだ。





今朝目覚めたら、既に日は真上にあった。

あたしは生暖かい音楽で部屋を満たした。

髪をまとめ、エプロンをつけて、サンドウィッチを作る。

薄いパンを軽くトーストして、バターを塗り、チーズを乗せたらまた少しトーストする。

レタスとトマトとカリカリのベーコン、マスタードとマヨネーズで作ったソースをたらす。

ゆで卵にはすこしカレー粉を混ぜて、挽いたばかりの黒コショウをかけて、シーチキンにはたまねぎのみじん切りとマスタード。

それらをきちんとパンにはさみ、食べ易い様に切り、
お気に入りの皿に並べる。

隣にはブロックガラスを模したグラスを置いて、柿色の飲み物を注ぐ。

トーストサンドとオレンジジュースは幸せの象徴の様な匂いがする。

何かやわらかく微笑んでしまいそうで、吐き気がする。

大切にくみ上げてきたものを足でしたたかに踏み潰すイメージで、
あたしはそれらを噛み砕き、飲み込む。

何も無くなった汚れた皿を見つめて、とてもさみしくなった。

父は余命20日だそうだ。

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