“Day by day, in every way, I’m getting better and better.”
「日々に、あらゆる面で、
私は益々よくなってゆく」
クーエの有名な暗示文です。
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その日、不動産会社社長とのアポの日、
体調はすこぶる悪くて、とてもつらかったのを覚えている。
眩暈がひどくて、熱が下がらない。
お腹がずきずきと痛んで、
不甲斐ないママに赤ちゃんが不平を言っていた。
あたしは生まれつき、子宮の右半分が潰れている。
おまけに子宮内膜症だったみたいで
子供の頃から生理痛の度に脂汗を浮かべ、
部屋中を転がったものだった。
だが、その原因を知ったのは今から四年前、丁度20の頃だ。
「子宮が潰れている。内膜症。臓器同士の癒着も始まっている。」
子宮全摘を勧められる。
「子供が欲しい」と思ったことすら無かったガキのあたしが、
生まれて初めて「子供が欲しかった」と泣いた夜だった。
様はこういうことらしい。
四角い箱に入れられたメロンは、真四角に育つそうだ。
潰れた子宮に居る赤ちゃんは、流れるか、奇形の可能性が高い。
あたしは、四角いメロンを愛せるだろうか。
答えは、NOだった。
だからあたしは子供を諦め、代わりに彼女を、猫を飼った。
ところが神様はいじわるだった。
出来ない出来ないと言われていた赤ちゃんが宿ったその日、
子供のように育てた彼女が消えてしまった。
だが赤ちゃんも育っている。
こんな事ばかりしていられなかった。
早急に、落ち着かなければいけなかった。
そんな事を考えながら、心を落ち着かせ、不動産管理会社へ入った。
だが不動産会社の対応は目に余るものだった。
言われた言葉だけ羅列すると
「犬畜生ふぜいごときが!」
「窓から投げ捨てられなかっただけましだ!」
「蹴られたって文句はない!」
「ゴミ袋に入れて、捨てた!」
「廊下に出した時点で野良猫だ!こっちが何をしようと関係ない!!」
あまりにのらりくらりと交わす社長に頭にきてしまって、
感情的に「動物を遺棄する事は法律に違反する」
と不必要な脅しをかけてしまったのが、
彼が言葉を荒げた理由だろうとは想像が付くが、
それまで一度も言葉を荒げなかったあたしが狂うには十分だった。
もう、後は何を言われたのか、あまり覚えていない。
何度も言うが、廊下に出した事は、かつて一度も無い。
部屋の中でだけ、大切に育てていた。
それをまるで、
マンションの廊下中を自由に放して居た様な言い方をされ、
挙句そんな事をするなら飼い主もなんでもないんだから、
文句を言う権利すら無いとまで言われた。
何もしていないのに。
何も、何もしていないのに!!!!!
あたしは社長を罵った。
生まれて初めて、他人を、大声で、罵ってしまった。
「犬畜生・・?!窓から捨てても・・?!
そんな、そんな言葉を使う必要が、
今、ここで、『家族を探しにきているといっている』あたし達に、
今ここで、そんな言葉を使う必要が、あるんですか?!」
その後は覚えてない。同じ空気を吸うのも嫌になったあたしは、
不動産管理会社を飛び出して一人で家に帰ったんだと思う。
彼氏は狼狽していたが、話し合う為に残ってもらった。
皮肉な話だ。彼が冷静さを失うのを防ぐためについていったのに、
誰より冷静になれなかったのはあたしだった。
だが、家についてすぐ、あたしは激痛に襲われる。
あかちゃんが怒っていた。
動けない。脂汗が噴出し、目が開かない。
赤ちゃんが、怒っている。
あたしは、命の選択をしているのだろうか。
体調はすこぶる悪くて、とてもつらかったのを覚えている。
眩暈がひどくて、熱が下がらない。
お腹がずきずきと痛んで、
不甲斐ないママに赤ちゃんが不平を言っていた。
あたしは生まれつき、子宮の右半分が潰れている。
おまけに子宮内膜症だったみたいで
子供の頃から生理痛の度に脂汗を浮かべ、
部屋中を転がったものだった。
だが、その原因を知ったのは今から四年前、丁度20の頃だ。
「子宮が潰れている。内膜症。臓器同士の癒着も始まっている。」
子宮全摘を勧められる。
「子供が欲しい」と思ったことすら無かったガキのあたしが、
生まれて初めて「子供が欲しかった」と泣いた夜だった。
様はこういうことらしい。
四角い箱に入れられたメロンは、真四角に育つそうだ。
潰れた子宮に居る赤ちゃんは、流れるか、奇形の可能性が高い。
あたしは、四角いメロンを愛せるだろうか。
答えは、NOだった。
だからあたしは子供を諦め、代わりに彼女を、猫を飼った。
ところが神様はいじわるだった。
出来ない出来ないと言われていた赤ちゃんが宿ったその日、
子供のように育てた彼女が消えてしまった。
だが赤ちゃんも育っている。
こんな事ばかりしていられなかった。
早急に、落ち着かなければいけなかった。
そんな事を考えながら、心を落ち着かせ、不動産管理会社へ入った。
だが不動産会社の対応は目に余るものだった。
言われた言葉だけ羅列すると
「犬畜生ふぜいごときが!」
「窓から投げ捨てられなかっただけましだ!」
「蹴られたって文句はない!」
「ゴミ袋に入れて、捨てた!」
「廊下に出した時点で野良猫だ!こっちが何をしようと関係ない!!」
あまりにのらりくらりと交わす社長に頭にきてしまって、
感情的に「動物を遺棄する事は法律に違反する」
と不必要な脅しをかけてしまったのが、
彼が言葉を荒げた理由だろうとは想像が付くが、
それまで一度も言葉を荒げなかったあたしが狂うには十分だった。
もう、後は何を言われたのか、あまり覚えていない。
何度も言うが、廊下に出した事は、かつて一度も無い。
部屋の中でだけ、大切に育てていた。
それをまるで、
マンションの廊下中を自由に放して居た様な言い方をされ、
挙句そんな事をするなら飼い主もなんでもないんだから、
文句を言う権利すら無いとまで言われた。
何もしていないのに。
何も、何もしていないのに!!!!!
あたしは社長を罵った。
生まれて初めて、他人を、大声で、罵ってしまった。
「犬畜生・・?!窓から捨てても・・?!
そんな、そんな言葉を使う必要が、
今、ここで、『家族を探しにきているといっている』あたし達に、
今ここで、そんな言葉を使う必要が、あるんですか?!」
その後は覚えてない。同じ空気を吸うのも嫌になったあたしは、
不動産管理会社を飛び出して一人で家に帰ったんだと思う。
彼氏は狼狽していたが、話し合う為に残ってもらった。
皮肉な話だ。彼が冷静さを失うのを防ぐためについていったのに、
誰より冷静になれなかったのはあたしだった。
だが、家についてすぐ、あたしは激痛に襲われる。
あかちゃんが怒っていた。
動けない。脂汗が噴出し、目が開かない。
赤ちゃんが、怒っている。
あたしは、命の選択をしているのだろうか。
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忘れもしない。
2006年7月3日。
あたしは心底動揺していた。
そして病院で告げられた。
「妊娠していますね。5週目です。どうします? 生みますか?」
彼は、小さな小さな生き物が写りこんだらしい、黒い紙を見せ続ける。
「一週間で決めてください。生むのならば準備にかかります。
そうでないのであれば、手術日を決めなければいけません。」
呆然としながら帰ったら猫が居なかった。
あたしの、あたしの大切な家族の猫が、どこにも居なかった。
どうやら心底動揺していた朝のあたしの隙をついて、冒険に出たらしい。
妊娠したせいで眩暈がひどい。熱もひかない。
彼と探す。探す。探す。
周辺に張り紙を張り、聞き込みまわる。
同ビルで猫を飼っている人や、犬を飼っている人等、
住人の何人かが協力してくれる。
目撃証言の電話が入る。
二人で飛び出したが、小学生のほんのいたずらの嘘だったらしく、
かなり探し回ってから嘘だと発覚。
腹が立つわけでもなんでもなく、ただただ、かなしかった。
毎晩、家に帰る度、彼女の気配がどこにも無いことを痛感する。
名前を呼んだって出てこないし、迎えにも来ない。
そうこうしているうちに日数は経つ。
朝から夜中まで走り回っているのに見つからない。
家に帰る度に泣き叫ぶ日々。
普段あれだけ困っていた、服につく猫の毛が減っていく。
あの子の気配が、消えていく。
不動産会社に問い合わせる。
「知らない」といわれる。
ところが住人の何人かが
「不動産会社の人が猫を袋に詰めていたのを見た」と証言。
「見たという人が居る」と不動産会社を問い詰める。
今度は
「猫は確かに見たがすぐに離した。野良猫だと思ったし、どこかに走っていった」といわれる。
先に言っておくが、うちのマンションはペット可だ。
管理会社は、それが野良猫なのか家猫なのかの区別もせず捨てる事はできないはずだと思っていた。
おまけにうちに猫には爪キャップがしてある。
ノルウェージャンフォレストキャットなので日本猫よりはかなり大きい。
本当に野良猫だとおもったのだろうか。
廊下に出したこともない猫なのに。
なにより、「すぐに逃げ去った」はずはない。
あの子は外に出た事が無い。
臆病なのに、いきなり走り始められるはずがない。
少なくとも、
「尻尾を伏せて、においをかいで、座り込んで、ゆっくりゆっくり動いた」ならありえるけれど。
事実、どちらの方向に逃げたかを聞くと曖昧だった。
だが協力してくれている住人がいくら問い詰めても、
それ以上は知らないと突っぱねられる。
仕方が無いので半信半疑だが、それ以上情報が無いので探し回る。
張り紙はこの時点で300枚を超える。
見つからない。泣き叫ぶ。
狂ったあたしは夜中部屋で張り紙をしだす。
部屋の中の至る所に張り紙をした。泣きながら、
自分でも気持ち悪い話だけれど、何故か迷子の仔猫ちゃんを歌いながら、
狂ったあたしは朝まで張り紙をし続けた。
次の日の朝、狂ったあたしはビルのオーナーの事務所を一人で訪ねた。
泣きはらした目で、できる限り冷静に、
「猫を探している」と、「返してくれ」と屈辱の思いで頭を下げ、
情けなくも泣いて懇願した。
オーナーは不在で、事務員が居た。
彼女はこの件については全く知らなかったらしく、
狂ったあまりにあたしが不憫だったのか、
単に場を収める最善の術を心得ていたのかは知らないが、
「すみません、本当に何も知らないのです」と泣きながら頭を下げた。
その足で不動産管理会社を訪ねた。
あたしを見るなり、迷惑そうな顔をする社長を座らせ、
これまで何度も何度も聞いた同じ質問をぶつける。
「猫を探しています。そして、見つからないのです。」
決まった文句が返ってくる。
「知らないし、逃げた」
狂ったあたしは続ける。
「あたしにとって、彼女は家族だった。
あなたが、殺したのであれば、もうそれでいい。
そうであったとして、あなたを責めないと誓う。
だから、嘘をつくのだけはもう、やめてほしい。
あたしは、あたしの家族にあいたい。
せめて、死体だけでも、毛の一本でも返して欲しい。
最期のお別れを、ひとりぼっちにはしたくない。
もう一度だけ、きちんと聞いてください。
本当は、どこに、捨てたのですか?」
残念だけれど、社長は目をそらし、薄笑いを浮かべながら言った。
「知らないんですよ、ほんとに、はは」
あたしは失望しながら帰途についた。おなかがズキズキ痛む。
赤ちゃんが自己主張をしはじめる。
あたしは何をやっているんだろう。
これじゃどっちも守れない。
だが家についてすぐ朗報が入る。
どうも罪悪感に駆られた社長が本当の事を話したらしい。
電話が入ったとの事。
当初探していた所から数キロも離れたところに、
「ダンボールに入れて、ガムテープで止めて、道の真ん中に捨てた」
らしい。
ダンボールに入れて、ガムテープで止めて、道の真ん中に、捨てた。
頭の中がぐるぐるしたが、考えている暇はなかった。
家を飛び出し、向かう。
捨てた場所は高級住宅街の一角だった。
聞き込みをし、必死で張り紙をする。
不動産会社が捨ててから、本当のことを話すまで4日かかっている。
あたしは、どうも「多分助かりはしないだろう」と思っていたらしい。
公園の草むらで「死んでいる猫」を探している自分に気づいて自嘲した。
必死で探す。
おなかが とても痛い。
範囲が広すぎて見当が付かない。
この時点で張り紙は優に500枚を超えていた。
その足で戻り、もっと明確な場所について、
不動産会社を更に問い詰め様とするが、
事務員は淡々と、「今日は社長はもう戻らない」といった。
あたしは確実に狂っていた。そして、不必要な情報を勝手に吐いた。
「あたしは妊娠している。5週目だ。
だけれどもう一週間朝から夜中まで走り回っている。
このままではもう、あたしも、あの子も、この子も、もたない。
嘘はつかないで。たすけて。お願いです。助けてください」
驚いた事務員はあたしを座らせ、暖かいお茶を飲ませ、
泣きながら、猫よりもあなたの子供の方が大切だろうと説いてきた。
だがあたしは煮えくり返った。
おまえが言うな、という気持ちで、ただただ憎かった。
だが事務員は続ける。
「あの辺りはお金持ちが多い。かわいい子だったから、
きっともっといい家に拾われているかもしれないから」
よくも言えたものだ。あまりの無責任な発言に閉口する。
もう少し休んでいけと言う事務員を無視し、
社長にアポだけとって出た。
そしてまた、夜中まで探し回り、疲労で気を失う様に眠る日々。
約束の朝、アポの時間が迫る。
体調は7月に入ってから、すこぶる悪い。
頭痛と眩暈がひどくて、熱が下がらず、体は異常に重い。
重い体を起こすあたしの様子を見てか心配して
「一人でいこうか?」という彼に、
「あなたは男の人だから、喧嘩をしかねない。
それでは意味が無い。あたしも行く」と答えた。
不動産管理社長はその日、薄笑いを浮かべながら待っていた。
2006年7月3日。
あたしは心底動揺していた。
そして病院で告げられた。
「妊娠していますね。5週目です。どうします? 生みますか?」
彼は、小さな小さな生き物が写りこんだらしい、黒い紙を見せ続ける。
「一週間で決めてください。生むのならば準備にかかります。
そうでないのであれば、手術日を決めなければいけません。」
呆然としながら帰ったら猫が居なかった。
あたしの、あたしの大切な家族の猫が、どこにも居なかった。
どうやら心底動揺していた朝のあたしの隙をついて、冒険に出たらしい。
妊娠したせいで眩暈がひどい。熱もひかない。
彼と探す。探す。探す。
周辺に張り紙を張り、聞き込みまわる。
同ビルで猫を飼っている人や、犬を飼っている人等、
住人の何人かが協力してくれる。
目撃証言の電話が入る。
二人で飛び出したが、小学生のほんのいたずらの嘘だったらしく、
かなり探し回ってから嘘だと発覚。
腹が立つわけでもなんでもなく、ただただ、かなしかった。
毎晩、家に帰る度、彼女の気配がどこにも無いことを痛感する。
名前を呼んだって出てこないし、迎えにも来ない。
そうこうしているうちに日数は経つ。
朝から夜中まで走り回っているのに見つからない。
家に帰る度に泣き叫ぶ日々。
普段あれだけ困っていた、服につく猫の毛が減っていく。
あの子の気配が、消えていく。
不動産会社に問い合わせる。
「知らない」といわれる。
ところが住人の何人かが
「不動産会社の人が猫を袋に詰めていたのを見た」と証言。
「見たという人が居る」と不動産会社を問い詰める。
今度は
「猫は確かに見たがすぐに離した。野良猫だと思ったし、どこかに走っていった」といわれる。
先に言っておくが、うちのマンションはペット可だ。
管理会社は、それが野良猫なのか家猫なのかの区別もせず捨てる事はできないはずだと思っていた。
おまけにうちに猫には爪キャップがしてある。
ノルウェージャンフォレストキャットなので日本猫よりはかなり大きい。
本当に野良猫だとおもったのだろうか。
廊下に出したこともない猫なのに。
なにより、「すぐに逃げ去った」はずはない。
あの子は外に出た事が無い。
臆病なのに、いきなり走り始められるはずがない。
少なくとも、
「尻尾を伏せて、においをかいで、座り込んで、ゆっくりゆっくり動いた」ならありえるけれど。
事実、どちらの方向に逃げたかを聞くと曖昧だった。
だが協力してくれている住人がいくら問い詰めても、
それ以上は知らないと突っぱねられる。
仕方が無いので半信半疑だが、それ以上情報が無いので探し回る。
張り紙はこの時点で300枚を超える。
見つからない。泣き叫ぶ。
狂ったあたしは夜中部屋で張り紙をしだす。
部屋の中の至る所に張り紙をした。泣きながら、
自分でも気持ち悪い話だけれど、何故か迷子の仔猫ちゃんを歌いながら、
狂ったあたしは朝まで張り紙をし続けた。
次の日の朝、狂ったあたしはビルのオーナーの事務所を一人で訪ねた。
泣きはらした目で、できる限り冷静に、
「猫を探している」と、「返してくれ」と屈辱の思いで頭を下げ、
情けなくも泣いて懇願した。
オーナーは不在で、事務員が居た。
彼女はこの件については全く知らなかったらしく、
狂ったあまりにあたしが不憫だったのか、
単に場を収める最善の術を心得ていたのかは知らないが、
「すみません、本当に何も知らないのです」と泣きながら頭を下げた。
その足で不動産管理会社を訪ねた。
あたしを見るなり、迷惑そうな顔をする社長を座らせ、
これまで何度も何度も聞いた同じ質問をぶつける。
「猫を探しています。そして、見つからないのです。」
決まった文句が返ってくる。
「知らないし、逃げた」
狂ったあたしは続ける。
「あたしにとって、彼女は家族だった。
あなたが、殺したのであれば、もうそれでいい。
そうであったとして、あなたを責めないと誓う。
だから、嘘をつくのだけはもう、やめてほしい。
あたしは、あたしの家族にあいたい。
せめて、死体だけでも、毛の一本でも返して欲しい。
最期のお別れを、ひとりぼっちにはしたくない。
もう一度だけ、きちんと聞いてください。
本当は、どこに、捨てたのですか?」
残念だけれど、社長は目をそらし、薄笑いを浮かべながら言った。
「知らないんですよ、ほんとに、はは」
あたしは失望しながら帰途についた。おなかがズキズキ痛む。
赤ちゃんが自己主張をしはじめる。
あたしは何をやっているんだろう。
これじゃどっちも守れない。
だが家についてすぐ朗報が入る。
どうも罪悪感に駆られた社長が本当の事を話したらしい。
電話が入ったとの事。
当初探していた所から数キロも離れたところに、
「ダンボールに入れて、ガムテープで止めて、道の真ん中に捨てた」
らしい。
ダンボールに入れて、ガムテープで止めて、道の真ん中に、捨てた。
頭の中がぐるぐるしたが、考えている暇はなかった。
家を飛び出し、向かう。
捨てた場所は高級住宅街の一角だった。
聞き込みをし、必死で張り紙をする。
不動産会社が捨ててから、本当のことを話すまで4日かかっている。
あたしは、どうも「多分助かりはしないだろう」と思っていたらしい。
公園の草むらで「死んでいる猫」を探している自分に気づいて自嘲した。
必死で探す。
おなかが とても痛い。
範囲が広すぎて見当が付かない。
この時点で張り紙は優に500枚を超えていた。
その足で戻り、もっと明確な場所について、
不動産会社を更に問い詰め様とするが、
事務員は淡々と、「今日は社長はもう戻らない」といった。
あたしは確実に狂っていた。そして、不必要な情報を勝手に吐いた。
「あたしは妊娠している。5週目だ。
だけれどもう一週間朝から夜中まで走り回っている。
このままではもう、あたしも、あの子も、この子も、もたない。
嘘はつかないで。たすけて。お願いです。助けてください」
驚いた事務員はあたしを座らせ、暖かいお茶を飲ませ、
泣きながら、猫よりもあなたの子供の方が大切だろうと説いてきた。
だがあたしは煮えくり返った。
おまえが言うな、という気持ちで、ただただ憎かった。
だが事務員は続ける。
「あの辺りはお金持ちが多い。かわいい子だったから、
きっともっといい家に拾われているかもしれないから」
よくも言えたものだ。あまりの無責任な発言に閉口する。
もう少し休んでいけと言う事務員を無視し、
社長にアポだけとって出た。
そしてまた、夜中まで探し回り、疲労で気を失う様に眠る日々。
約束の朝、アポの時間が迫る。
体調は7月に入ってから、すこぶる悪い。
頭痛と眩暈がひどくて、熱が下がらず、体は異常に重い。
重い体を起こすあたしの様子を見てか心配して
「一人でいこうか?」という彼に、
「あなたは男の人だから、喧嘩をしかねない。
それでは意味が無い。あたしも行く」と答えた。
不動産管理社長はその日、薄笑いを浮かべながら待っていた。